現代にも通じる心の闇を捉え、失う者の姿を描く『マクベス』 |  MOVIE
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2016年4月18日

現代にも通じる心の闇を捉え、失う者の姿を描く『マクベス』 | MOVIE

MOVIE|悲劇を題材に人心の闇を描く

『マクベス』の劇場公開が迫る

シェークスピアの没後400年にあたる2016年。彼の四大悲劇のひとつ 『マクベス』が、ジャスティン・カーゼルの監督作品としてスクリーン上映される。主人公マクベスには『スティーブ・ジョブズ』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたミヒャエル・ファスベンダー、マクベスの妻役で『ミッドナイト・イン・パリ』のマリオン・コティヤールが出演。2016年5月13日(土)より、TOHO シネマズシャンテ他にて順次公開される。

Text by HORIO Yuuki

気が弱く、不安に苛まれるマクベス

シェークスピアの四大悲劇のひとつ『マクベス』は、スコットランドの領主マクベスがいかにして王となり、いかにして崩壊していくかを描く戯曲だ。原作では主人公・マクベスは、野心を剥き出して王を暗殺するという設定だが、この映画に登場するマクベスは、気が弱く、不安に苛まれ、暗殺の影に怯える男だ。

物語の序盤、マクベスが上り詰めていく過程で、あるものに遭遇するのだが、それはマクベス自身の心のなかにあるものということになる。果たしてそれは――

悲劇を通して心の闇に迫る

近年、戦争帰還兵のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の実態を描いた『アメリカンスナイパー』などの映画作品や読み物が脚光を浴びることがある。それらの作品で語られる人心の闇が、この作品でも大きなテーマとなっている。

カンヌ映画祭でのカーゼル監督がインタビューで語った「マクベスはPTSDとした」という設定が、原作とはちがった見応えを生み出した。これまでにさまざまな演出家、映画監督が描いた跳ね上がり者の“マクベス”ではなく、心に傷を負っていく姿を描くことで現代社会の抱える闇にも切り込む。

主人公は、戦いに明け暮れて傷つきながら力により何かを得ていくマクベス、そして欲望に囚われ男を焚きつけ傷つける美しい妻。この二人が人間らしい心を失っていく遷移が、マクベス役のミヒャエル・ファスベンダーと妻役のマリオン・コティヤールの好演により、見事に映像に落とし込まれている。

原作や舞台をよく知る者からすれば少し違和感のある設定かもしれない。だが、世界でもっとも有名な悲劇、そして中世スコットランドという過去が舞台だからこそ、観客自身が戦いや欲望によって人心が失われる叙情を無垢に捉えることができる。この現実社会に影を落とす心の傷。リアルな現代描写が苦手なひとにも、この映画を通してなら感じ入るものがあるのではないだろうか。

『マクベス』
監督 | ジャスティン・カーゼル
原作 | ウィリアム・シェークスピア
出演 | ミヒャエル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール、パディ・コンシダイン、ショーン・ハリス、ジャック・レイナー、デイヴィッド・シューリス
配給 |吉本興業
2015年/アメリカ/原題『Macbeth』
http://macbeth-movie.jp

           
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